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お茶友

吉村先生のもとで一緒にお茶を習っていたみわさんが金沢を離れ、ご主人の地元に転居されました。


彼女との出会いは8年前の町屋塾茶会。

客のひとりとしてみわさんと席を共にし、町屋塾主宰者ちかさんのお点前を頂き、私はここでお茶を学びはじめました。


それからしばらく時を経て、一緒にお稽古に通うようになったのが4年ほど前。

町屋塾での薄茶点前の教室から濃茶のお稽古に進む時、ちかさんのお稽古に合流する形で、共に先生のお茶室に通うようになりました。


木曜日の朝9時40分、大手町でみわさん、天神橋のたもとでちかさんを拾い、浅野川沿いの狭い側道を抜けて先生のお宅へ。

車中から見る卯辰山の自然は通り過ぎるたびに少しずつ姿を変えます。

私たちは行きつ戻りつしながらも確実に進む季節を感じつつ、他愛もないおしゃべりをしました。


毎週同じコースを走る小さなドライブから、四季は区切りではなくグラデーションなのだと知りました。

お茶室の季節が、その日その日に合わせて選ばれた細かなしつらえやお道具、軸やお花で移ろいを刻んでいるのと同じだと気づきました。

何気ない会話中、ふと車窓に映る風景を目にして、「きれい!」と声が揃う瞬間が嬉しい。

茶室に差し込む淡い光が茶碗を照らす景色を見て「ああ、いい感じ」と心が動く瞬間を共有できる。

茶歴ではずっと先輩のお二人は、共に季節を楽しむお茶友となりました。


コロナウイルスが猛威をふるった3年の間も、自粛の嵐を逃れひっそりと息をつくように、お稽古は続きました。

恐れと息苦しさと焦燥にキリキリと締め付けられるような日常を、いっとき忘れられる貴重な時間。


この状況は早く収束してほしいけど、この時間はずっと続いてほしい。

そんな相反する願いをよそに、季節は進んでいきました。

季節と同じく、私のお点前も行きつ戻りつしながら、きっと少しは前に進んでいったのでしょう。


そして私たちの生活はこの春に大きく変わりました。

例年よりずいぶん早足で桜が通り過ぎ、若葉が芽吹き、出会いと別れが交錯するその頃。

みわさんはこの町を去り、私はフルタイムの新しい職に就きました。

そしてコロナ禍の収束とともに、ちかさんには町屋塾の繁忙期が戻ってきました。


3人でのお稽古が終わって、それぞれが自分たちの日常へと向かって歩き始めた春。

私のお茶のお稽古は土曜日に移り、時々町屋塾のお茶体験をお手伝いしています。

新しい職場での緊張や落ち込みから気持ちをリセットする大切な時間です。


でも時々懐かしく思い出す。

季節の移ろいを味わいながら走った卯辰山のドライブ道。

良きお茶友達と一緒にお稽古に通い、お稽古から帰るその道すがらも、茶の湯だったのだとあらためて思います。




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